2011年10月13日

映画「レスラー」/ダーレン・アロノフスキー監督、ミッキー・ローク主演。


駄目な父親であり駄目な男でもあるけれど、プロレスラーとしては最高に格好よくファンから愛されているランディ・“ザ・ラム”・ロビンソンをミッキー・ロークが演じている。ミッキーは元プロボクサーだが、この映画ではレスラーにしか見えない。試合のシーンは、まるで本物の試合を見ているようで、見ているこちらの体に自然と力が入ってしまう。ランディが体にホチキスを撃たれたり、自ら額をカミソリで切る場面は、リアルで、本当にやってるんじゃないだろうか、と思ってしまった(そんなことないと分かっているのに)。リングの上での強いランディと、リングを下りると寂しい生活を送るランディ、物語はそのふたつを行き来しながら進んでいって、一人のレスラーの人生を描いている。試合をしていてもしていなくても、ランディは常にプロレスラーだった。


ストリッパーのパムや娘のステファニーとの穏やかなシーンが、かえってランディと彼女たちの関係が危ういものだというのを際立たせていて、見ていて切なくなる。でもそこからラストに繋がるのだけれど。ラストはどちらにも捉えられる。生きるのか、死ぬのか。死んだならば、自分にはリングに上がることしかできないと悟ったランディにとっては最高の終わり方なのかもしれない。生きていたならば、またステファニーにもパムにも会いにいって、駄目な父親、駄目な男のままでいると思う。でも自分は、後者であってほしいと、エンドロールを見ながら思った。あのまま、格好よく終わってほしくはない。


この映画は、否が応でもミッキー・ローク自身の俳優人生とかぶってしまうところがある。それがいい所でもあると思う。色々あったけれど、この映画のミッキーは間違いなく最高だった。パム役のマリサ・トメイはいくつになってもチャーミングで、「忘れられない人」で初めて彼女を知ってから、印象が全く変わらない。ストリップ劇場で、ランディと同じような淋しげな表情をしていたシーンはドキッとした。ステファニー役のエヴァン・レイチェル・ウッドは「ウィズ・ユー」以来、彼女が出ている映画を見たのは初めてで、大人になったなー、ドラキュラみたいに肌が白いなーなんて、見ながら思っていた。必要以上に父親を罵倒してしまうところは、どちらの気持ちも分かるようで、胸が苦しくなった。


ずっと気になっていたのに今まで見なかったのは、「これはきっといい映画に決まっている」と感じていたからで、だから、調子が悪いときとか、集中できないときに見たくなかった。今回やっと見てみたら、そんな直感は遥かに飛び越えてしまっていて、久しぶりに、というか今年一番のいい映画を見たな、と思った。